長時間労働の健康被害は大きく2つです。
1,脳・心血管疾患の増加
2,睡眠障害により引き起こされるメンタル不調
これらより派生し、多くの疾患を招いてしまいます。
長時間労働と脳・心血管疾患
長時間労働と健康被害に関する研究は長らくされてきました。近年、多くの研究からの共通認識として、労働時間が長くなると虚血性心疾患及び脳卒中で亡くなるリスクが高くなるとされています。例えば、2021年にILOとWHOにより発表され、長時間労働と虚血性心疾患と脳卒中で亡くなった人を世界規模で調べた疫学研究があります。この論文では週労働時間35〜40時間の群に比べ、週55時間以上の群で、虚血性心疾患死亡率は42%、脳卒中死亡率は19%高かったと報告されています。
参考:Frank Pega, et al. Global, regional, and national burdens of ischemic heart disease and stroke attributable to exposure to long working hours for 194 countries, 2000–2016: A systematic analysis from the WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury
Author links open overlay panel, Environ Int. 2021 Sep;154:106595.
日本では、36協定により、労働者に課す時間外労働は制限されています。日本の長時間労働と疾患発症の研究からも、降圧剤治療下の50代男性において、一日拘束7〜10時間の群と比較し、11時間以上で脳・心臓疾患発症リスクは2.7倍(①)、週労働40時間以下の群と比較し、週労働61時間以上で急性心筋梗塞発症リスクは1.9倍(②)となることが報告されています。これらを月労働時間に換算すると月60〜80時間ということになります。
参考①:内山集二・倉沢高志・関沢敏弘・中塚比呂志 (1992) 「降圧剤治療を受けている 50 歳代男性労働者における脳心事故の危険因子」 『産業医学』 34, 318-325.
参考②:Liu Y, Tanaka H, The Fukuoka Heart Study Group (2002) ‶Overtime Work, Insufficient Sleep, and Risk of Non-fatal Acute Myocardial Infarction in Japanese Men” Occup Environ Med, 59, 447-451.
長時間労働と睡眠障害
また、長時間労働は睡眠時間の減少にもつながります。米国で行われた研究から、睡眠時間が7〜8時間の群が、6時間以下の群及び9時間以上の群に比べ、あらゆる死因を総合した死亡率が最も低いと報告しています。
参考③:D. L. Wingard, L. F. Berkman. Mortality risk associated with sleeping patterns among adults. Sleep. 1983;6(2):102-7.
日本の平均的な活動時間を考慮し、時間外労働2時間程度であれば、睡眠時間7.5時間を確保できるとされています。これ以上の時間外労働は睡眠時間の短縮を助長します。なおこれを月残業時間に換算すると45時間となります。
なお、睡眠時間の減少が招くものとしては、集中力の低下、抑うつ気分を招き、うつ病などのメンタル不調を引き起こす恐れがあります。
時間外労働への対策
36協定では、これらを背景として、時間的制限を設けることとなりました。対策としては以下の通りです。
1,労働基準法第36条(36協定)に沿った労働時間の業務量・人員の調整を行う
2,同法39条による年次有給休暇の取得促進(年5日は確実に取得)
3,月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者は申し出により面談を行う。また、申し出がない場合でも面接指導を実施するよう努める。月45時間超の時間外労働で健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましい。
参考:厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
4,安全衛生委員会での長時間労働に関する報告
申し出に関しては、長時間労働に対する面接の活用や周知を行なってください。健康を保ちながら働くことのできる環境づくりが、企業や事業の存続、効率化や新しいアイデアを導きます。
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