動脈硬化が進行することで引き起こされやすくなる病態として、脳梗塞・心筋梗塞が挙げられます。心筋梗塞の前段階にも位置する狭心症はよく知られた疾患ですが、脳梗塞の前段階として一過性脳虚血発作(TIA: Transient Ischemic Attack)という病態があるのはご存知でしょうか。今回はそのTIAに関して見ていきましょう。
TIA(一過性脳虚血発作)とその原因
TIAとは、脳への血流が一時的に低下することで起こる、短時間(通常は24時間以内)に解消する脳機能の障害です。
一過性脳虚血発作(TIA)の原因は複数あり、そのメカニズムは主に脳への血流が一時的に妨げられることにより発生します。具体的には、以下のような原因が挙げられます:
- 血管の狭窄や閉塞:動脈硬化による血管の狭窄や、血栓による一時的な閉塞が原因となることがあります。特に、頸動脈や脳内の小さな血管が影響を受けることが多いです。
- 心原性の塞栓:心房細動などの不整脈により、心臓内で血栓が形成され、これが血流に乗り脳の血管を塞ぐこともあります。
(図)内頸動脈:動脈硬化を生じやすい代表的な血管
症状について
TIAの症状は、内頚動脈領域や椎骨脳底動脈系の循環障害によって異なり、内頸動脈領域の血流障害では主に、片麻痺、感覚異常、構音障害、失語、椎骨脳底動脈系の血流障害ではめまい、視野障害、運動失調、嚥下障害などが出現します。持続時間は数秒から15分以内、長くても24時間以内に消失します。内頸動脈領域は主に大脳の前頭葉や頭頂葉を主に灌流し、椎骨脳底動脈系は小脳や脳幹、大脳の側頭葉、後頭葉を主に灌流するため、症状に違いが出ますが、これらのような症状があれば、脳梗塞もしくはTIAの可能性があります。
診断・治療と予防
診断
検査として、FAST(Face, Arm, Speech, Time)テストがあります。
FAST | 症状 |
Face | 口角の歪み、額のしわが作れない |
Arm | 力が入らない、触った感覚がない |
Speech | 呂律が回らない |
Time | 受診を急いで |
また、病院での診断ではMRIが有用です。また原因検索のため、頸動脈エコー、心電図、血液検査、心臓エコーが適宜追加されます。
治療と予防
TIAの治療は、脳梗塞の発症を予防することに焦点を当てています。薬物療法には抗凝固剤や血小板凝集阻止剤の投与が含まれ、外科的療法には血栓内膜摘除術や頚動脈ステント留置術が考慮されます。病態が動脈硬化性の場合は、タバコ、食事、運動などの生活習慣の改善や高血圧、高血糖、高コレステロールがあれば治療と改善意識が必要になります。
脳梗塞への移行リスク
TIA(一過性脳虚血発作)から脳梗塞への移行リスクは、短期間でかなり高い可能性があることが指摘されています。国立循環器病研究センターによると、TIA発症後90日以内に15~20%、うち半数が2日以内と言われています。予測ツールとしてはABCD2スコアがあり、TIA発症後2日以内に脳卒中を発症するリスクは、ABCD2スコアに基づいて評価され、スコアが高いほどリスクも高くなります。ABCD2スコアは、年齢(Age)、血圧(Blood pressure)、臨床症状(Clinical features)、症状の持続時間(Duration of symptoms)、糖尿病(Diabetes)の5つの要素で構成され、0〜7点で評価されます。以下参考までに。
点数 | 年齢 | 血圧 | 臨床症状 | 持続時間 | 糖尿病 |
0 | 60歳未満 | 正常 | 言語障害や片側症状 はない | 10分未満 | なし |
1 | 60歳以上 | 140/90mmHg以上 | 言語障害はあるが片側症状はない | 10~59分 | あり |
2 | – | – | 片側症状あり | 60分以上 | – |
ABCD2スコアの問題点として、低リスク群や不整脈背景である場合、このスコアの精度には限界が示唆されていますが、これらは特に医療専門職の職域であり、自身で評価せず、TIAの症状があれば直ちに医療機関を受診することが重要です。
最後に
大血管の脳梗塞を発症してしまうと不可逆的な半身不随に至るケースも少なくありません。そのため、本疾患を疑う症状が出た場合は、緊急で受診し、その後の治療や予防をすることが重要です。また、TIAは動脈硬化が原因となる疾患の一つです。動脈硬化を引き起こす生活習慣に心当たりがある場合、少しずつ改善に向けて取り組みを進めていきましょう。
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