仕事を休職された方は、休職時に今までの働き方や考え方を振り返ると思います。
その際に、職場において一般的にどのような流れでストレスが溜まるか、自身はストレスを感じやすいかを見直すと、復職時に以前よりもストレスを上手にコントロールでき、社会に適応することができるでしょう。
今回の記事では、職場でのストレスが発生する過程とその対処について見ていきます。
職場でのストレス発生過程
職場ではどのようにストレスが発生するのでしょうか。
以下の図は、NIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health: 米国国立労働安全衛生研究所)が提唱する職場でのストレス発生過程のモデル図です。
このモデルは、“仕事のストレス因”が“ストレス反応”を生じさせ、エピソードの強度やストレス反応が放置されることにより“疾病”につながると示されています。ただし、”仕事のストレス因”があったとしてもいつも”ストレス反応”が生じるわけではありません。
それに関与するものは、主に“個人要因”、“仕事外の要因”、そして“緩衝要因”です。個人要因や仕事外の要因は、ストレスの増強もしくは緩和として働きます。緩衝要因は、主にストレスの緩和を促します。
では、それらの具体例を見てみましょう。
“仕事のストレス因”としては、仕事量・質、人間関係、仕事上の問題、身体的な疲労、気温・騒音など環境因子などが挙げられます。過去の厚生労働省によるアンケート調査(労働安全衛生調査; 厚労省が定期的に行う)の結果を見ると、職場のストレスの内容で多いものは順に、仕事の量・質、仕事の失敗、責任の発生等、対人関係(セクハラ・パワハラを含む)でした。
これらのことがストレスとなり、精神面、もしくは身体面で“ストレス反応”が出現することがあります。代表的な精神面の症状は、不安、イライラ、無気力、気分の落ち込みです。身体的な症状としては、頭痛、睡眠障害が現れることがあり、それにより集中力の低下やミスを招くようになります。
“ストレス反応”は自身からのSOSです。
“ストレス反応”に気づくのが遅れる、まだやれると思い頑張る、もしくは放置することで、“疾病”につながることがあります。職域で多く生じる疾病としては、うつ病や適応障害があります。
次に、仕事のストレス因をストレス反応につなげる増強因子や緩和因子となる”個人要因”、”仕事外の要因”、”緩衝要因”の具体例を見ていきます。
“個人要因”の具体例には、思考の癖、認知、対処があります。
“仕事外の要因”としては、家庭、日常生活、事故があります。
“緩衝要因”としては、周囲のサポート、趣味、余暇の使い方が挙げられます。
個人による対策は再発予防の一環
厚生労働省は、近年増加する精神疾患の予防のために、「職場における心の健康づくり」を公表し、多角的なメンタルヘルスケアを企業にも推奨しています。多角的なケアとは以下のようなアプローチです。
1. セルフケア・・・ストレスやメンタルヘルスへの理解、ストレス対処
2. ラインケア・・・組織中心に職場環境の把握と改善、相談対応、復帰支援
3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア・・・事業場内スタッフや機会
4. 事業場外スタッフによるケア・・・事業場外スタッフや機会の活用
4つの立場からそれぞれアプローチする場合に、モデル図において、より取り組みの効果が出やすいポイントが存在します。
職場でのメンタルダウンは、モデル図の流れを辿ることが多くあります。ストレスの発生過程を確認し、どのような個人による対策(セルフケア)が有効なのかを見ていきましょう。それらが今後のストレスの軽減とご自身のwell-beingをアシストしてくれることでしょう。
ストレスへの具体策
ピンク色の枠で囲った部分は、主に個人の取り組みの効果が出やすい部分になります。それぞれの枠へのアプローチを見ていきましょう。”ストレス反応”と”個人要因”に関しては入念に見ていきます。
1.ストレス反応
まずは、”ストレス反応”について見てみます。仕事のストレス因”から”ストレス反応”が出てしまう過程で、”ストレス反応”は個人での対策も重要な部分です。
“ストレス反応”は、体や心からのSOSサインです。
これを感じ取れるかどうかで、今後の生き方が変わると言っても過言ではありません。体がSOSを出している場合、まずはその声を聴くことが大切です。
ストレス反応への具体策としては、落ち着く音楽を聴く、思考を止めぼーっとする、少し長く入浴する、睡眠を確保する、相談できる人に話をしてみる、家族に少し話す、などが挙げられます。
これらの趣旨は主に、
①心身を休めること
②リフレッシュや気分転換できることを取り入れること
③相談相手を確保すること
です。
まず、①”心身を休めること”に関してです。
体を休めるには?心を休めるには?それはあなた自身がよく知っています。
あなたは何で体が休まりますか?何をすると心が休まり、リラックスができますか?これらは人それぞれ違います。
②”リフレッシュや気分転換できることを取り入れること”も同様に、他者がリラックスできるということが自分には当てはまらないこともありますし、ストレスになることさえあります。
上記に具体例をいくつか挙げましたが、①、②に関して自分なりの方法を見つけることが大切です。自分からのSOSを素直に受け止め、自分の体や心を自分なりの方法で休めましょう。誰かの答えや案よりも、自分が導き出す答えがその人の答えであり、それが自身の心身を癒すことに繋がります。
③”相談相手を確保すること”に関してです。
あなたは誰かに相談する際に、何を求めていますか?どんな人に話したくなりますか?相談することの最大の効果は、解決することではなく、気持ちを和らげることだと言われます。あなたが今までに相談してよかったと思う方は、話を聞いてくれる人ではなかったでしょうか。
もし現在、相談する習慣や相談する相手がいないという場合は、少しずつ話す習慣をつけ、相談できる人を見つけてみましょう。それがいつかあなたを支えます。また、そのような人間関係は別の機会に、他者のストレスの軽減にもつながることでしょう。
“ストレス反応”へのアプローチについてまとめると、まずは体や心からのSOSサインを素直に聞くことです。また、①心身を休めること、②リフレッシュや気分転換できることを取り入れること、③相談相手を確保すること等の観点で、自分なりの対処法を考えてみましょう。
2. “個人要因”の振り返り
次に”個人要因”を見ていきます。”個人要因”には、a.思考の癖、b.認知、c.対処の仕方が含まれます。
a.思考の癖は、自責しやすい性格、罪悪感を抱きやすい、自己肯定感が低いなどが挙げられます。
着眼点を個人から社会に少し移して、企業や組織とは何かを考えてみます。それらは、主に社会の変化やニーズに対応し、事業から収益や公益を成し、従業員にそれを分配する社会的集団です。流動的な社会の中で、昨日とは状況が変わることがあります。組織や人の感情も流動的で、変化が大きければ人間関係のトラブルが生じることもあります。ここで述べたいのはトラブルが生じた時、組織の情報伝達、共有、システムなどに問題が存在する可能性もあるということです。
そのため、自責や罪悪感を一人で抱え込む必要はないのです。
また、一人で抱え込むことでメンタルダウンを招いては、チームのパフォーマンスも下がりかねません。時にチームで考えることが、より持続的で効果的な方法ではないでしょうか。
「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがあります。
一人の頭脳よりも三人の頭脳で考えれば糸口が見つかることもあるでしょう。また、自分で解決が難しいことをずっと考えていると、自身のパフォーマンスや健康も低下させることになります。そんな時は、一人で考えるよりも話す、相談することも大切です。
なかなか相談しにくいチームに所属している場合もあるかもしれませんが、そんな環境下にいる場合は、そのチーム外の人に相談することも大切です。
個人要因のb.認知に移ります。
認知は、社会の成り立ち、物事の考え方、社会と自分との位置関係、社会の捉え方などが挙げられます。物事の考え方や何が是とされるかは、所属する組織で少し違いはあるでしょう。また社会の捉え方は人の生育環境にも大きく左右されます。
社会に出ると、多くの人と接し、利害関係を持つ中で、社会や人の安心感がない場合、トラブルに見舞われた場合に怖く感じることがあるかもしれません。ただ周囲にもいろんな人がいるはずです。その時の自分に優しい人もそうでない人も存在します。
自分に辛く当たってくる人は、自分のことを実は考えてくれているかもしれないし、もしくは自身のことに忙しく余裕がないのだけかもしれません。優しい人にも出会うでしょうし、明らかに悪意がある人は避ける方が良いでしょう。なので社会や人を全面的に怖がる必要はなく、少しずつ自身の話せる人や環境を作ること、自身が大切にしたいことを考えることも自身のより良い人生を構築していくことにつながります。
さて、個人要因の中で最後に、c.対処についてお話しします。
物事の対処に絶対的な正解はありませんが、その職場での対処の中にはうまくいきやすい、もしくはストレスを溜めにくい方法が存在しています。その職場のどこでトラブルが生じやすいか、ストレスが溜まりやすいかの傾向を探ってみたり、その部署で生じやすいトラブルやストレスへの対処が上手な先輩の話を聞いてみるといいでしょう。
わからないことの蓄積は大きな不安となり、“ストレス反応”となって現れます。また心の中で不安や恐怖があることで、それにとらわれる時間も長くなり、最終的にはパフォーマンスの低下を招きます。
わからないことや不安を溜めすぎず、自身のペースで今自身が身を置く場所で起こりうるトラブルの対処を学んでいきましょう。トラブルの対処を学ぶ、調べる姿勢がひいては自身の健康につながっていきます。
3. “仕事外の要因”への対処
“仕事外の要因”を見ていきます。
ストレスは職場のみで発生するものではなく、その他の日常生活でも発生します。基本的に家庭や日常生活などはリラックスできる場所ですが、時に問題が生じることもあるでしょう。健康が損なわれる時、事故に見舞われた時なども、その後対応に追われストレスが蓄積することがあります。
そのような際には、誰しも落ち込みますが、それぞれのペースで少しずつ対処法を学ぶことが大切です。
直前の段落で、蓄積する不安がストレス反応に直結することを述べました。
日常生活であっても、対処や解決の仕方を知っているかどうか、知っている人や媒体にアクセスできるかどうかで、ストレスも変わってきます。
ストレスの対処が上手な人は、周囲の人の対処の仕方を見たことがあったり、似た経験をすでにしているのかもしれません。もし知らなかったとしても、対処を知らないからダメだと思う必要もありませんし、人と比べる必要もありません。
自分のペースで少しずつ対処法を学んでいけばいいのです。
知っている人から聞くことや、書籍などで調べたり学ぶ習慣が不安を低減させます。自分の無理のない範囲で優先順位をつけながら、そんな習慣を身につけていくことをお勧めします。
4. “緩衝要因”を見直そう
最後に”緩衝要因”についてです。
ストレスの緩和になる事柄としては、周囲のサポート、趣味、余暇の有意義な使い方などが挙げられます。
仕事をする上で自身だけで解決できないことは多くあるでしょう。だから企業があるとも言えます。サポートしてもらう、する環境を少しずつ醸成することで、自身やチーム、そして企業のパフォーマンスも上がります。
仕事がオフの時間であれば、趣味や余暇の活用で溜まった疲れの解消や日常生活の改善や仕事におけるアイデアにもつながることでしょう。健康に働くためには、疲れを残さずに毎日を送ることも大切です。自分なりのストレス解消法やマインドセットを形成しましょう。
自分のペースで進もう
時に、配属先によっては、自身やチームにとって強いストレスになる人がいる場合もあります。その人がとても有能と評価されていることもあります。その組織の中で是となる考えは存在するでしょうし、尽力することは大切です。
ですが、健康、特に精神的な健康を害すほどまで自己を犠牲にする必要はありません。苦しい時は苦しいと言うこと、そして苦しい時はSOSのサインを出してもいいのです。あなたの健康はあなたが一番よくわかっています。
なかなか普段は振り返ることができない箇所も、休職中に自身や環境を振り返ってみると、それが今後のストレス対処やあなたの人生をより円滑に楽しいものにしてくれることでしょう。自身のペースで、気持ちの余裕のある時に、ストレスへの対処法について考えていきましょう。
コメント