近年の食中毒の傾向と予防について

健康管理

厚生労働省は、食中毒統計資料として食中毒の発生状況と事件一覧を公表しています。それによると近年の発生は以下のようになっています。

*厚労省の統計より、件数や患者数が比較的少数の以下の項目は今回は含めていません。(セレウス菌、エルシニア・エンテロコリチカ、ナグビブリオ、コレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌、その他細菌、その他のウイルス、サルコシスティス、その他の寄生虫、その他の自然毒、不明)

項目として、サルモネラ菌から動物性自然毒まであり、サルモネラ菌から順に棒グラフの下位から上位に並んでいます。

発生件数に目を移すと、平成26年(2014年)から現在まで1000件前後で推移しています。件数の内訳としては、アニサキス感染症、カンピロバクター感染症、ノロウイルス感染症の順に多く発生しています。

次に患者数を見てみます。平成26年(2014年)には2万人近い患者が報告されていましたが、近年では1万人前後になっています。患者数が多いものは、ノロウイルス感染症、カンピロバクター感染症、ウェルシュ菌感染症になっています。

実際には、発生している食中毒の件数や感染者数は公表される数よりもはるかに多いとされています。軽症の場合、医療機関を受診せず自宅で回復する人が多くいたり、診断がつかない場合もあるため、件数、感染者数は何倍にも及ぶ可能性があります。

以下に、患者数の多いものを中心に感染予防策を確認していきます。

  1. 生息場所
  2. 感染経路・潜伏期
  3. 症状・治療
  4. 予防策

の順で解説していきます。

ノロウイルス

  1. 主に二枚貝(牡蠣・しじみなど)がノロウイルスに感染している場合があります。
  2. ヒトへの感染は経口感染、吐物の飛散があり、潜伏期間1-3日です。
  3. 症状は主に下痢、嘔吐、発熱、腹痛などの消化器症状が主体となりますが、小児や高齢者では、症状による体内水分減少が水分摂取に追いつかず、重篤化する場合があります。治療は主に脱水状態の改善が主になります。
  4. ノロウイルス感染症への予防策は、①二枚貝を85〜90度で90秒以上加熱、②吐物は防具を着た上で静かに拭き取り、ビニール袋へ。次亜塩素酸により吐物と床の消毒、③近くで感染者が出たもしくは可能性がある場合、タオルの共用を避ける、お風呂でなくシャワーにすることです。

カンピロバクター属菌

  1. カンピロバクター属菌は主に鶏の腸内に存在します。
  2. 鶏を捌く際に、鶏肉に付着し、それを摂取することで感染します。潜伏期間は2-5日です。
  3. 症状は下痢(時に血便)、腹痛、嘔吐などの消化器症状を中心に、発熱、筋肉痛も出現します。治療は主に下痢による脱水の補正、重症の場合は抗生剤投与が行われます。
  4. 予防策としては、①中心部を75度以上で1分以上加熱、②生肉と調理済み食品の交差汚染を避ける、③調理器具のエタノール消毒、漂白剤処理、④タオルの共用を避ける、お風呂でなくシャワーにすることです。

全ての鶏に存在するわけでなく、高いレベルで存在するわけでもありませんが、鶏肉を扱う際には十分な調理が推奨されます。

ウェルシュ菌

  1. この細菌は、土壌や動物の腸内に幅広く存在します。
  2. この細菌は、空気のない場所でも増殖することができる嫌気性菌に属し、また菌自体が生息しにくい場所では芽胞という状態を形成し、その芽胞は熱に耐性があります。主に加熱処理が不十分な肉類、調理済み後冷却したものの加熱が不十分な場合、経口感染します。過去に発生した食品としては、大量に調理したカレー鍋、シチュー鍋、スープなどです。鍋底のような空気のない場所で増殖したと考えられています。
  3. 症状は、下痢、腹痛がメインになり、下痢や摂取不良による脱水補正が基本治療になります。
  4. 対策としては、①加熱調理によりウェルシュ菌数自体を減らす、②大量に作った場合、常温長期放置しない、③小分けに保存し、早めに食べる、④空気を入れながら中心部まで十分に加熱することです。

サルモネラ菌

  1. サルモネラ菌は野生動物、家畜動物に広く生息しています。
  2. 過去の感染経路としては、鶏卵や鶏肉、不十分に加工された乳製品などから発生する傾向があります。感染経路は経口、潜伏期間は1-3日です。
  3. 主な症状は下痢、腹痛、発熱、嘔吐、頭痛、筋肉痛です。上述の感染症同様、症状からの脱水の補正が治療の主体になります。
  4. 予防策としては、①75℃以上で1分以上の加熱、②卵や肉を十分に加熱し、生の食品と調理済み食品が交差汚染を避ける、③ヒト-ヒト感染も生じ得るため、タオルの共用を避ける、お風呂でなくシャワーにすることです。

ブドウ球菌

  1. ブドウ球菌は、人や動物の皮膚・鼻腔に広く存在します。
  2. 食中毒が発生するのは菌自体ではなく、暑熱環境で異常に増殖した菌により大量に毒素が産生された場合です。不衛生な素手で作られたおにぎりを炎天下で数時間放置した場合が典型例です。
  3. 症状出現までは数時間、主に嘔吐、下痢、腹痛、発熱、腹痛がメインになります。治療は脱水の補正になります。菌自体は熱に弱いですが、毒素は100度30分の加熱でも分解されないと言われています。
  4. 上記の内容から対策としては、①調理時に手袋着用、調理後は早く食べる、②食品の外気温での放置を避ける、保冷ボックスの活用、③状況を考慮し、廃棄を検討することです。

腸管出血性大腸菌

  1. 大腸菌は動物、ヒトの腸内に広く生息します。多くはヒトに害がありません。ただ、いくつかの種類はヒトに害があり、消化器に症状を引き起こす大腸菌は病原性大腸菌、毒素を産生し腸管に出血病変や更なる症状(腎障害、血管障害、意識障害等)を引き起こすものは腸管出血性大腸菌と呼ばれます。
  2. 腸管出血性大腸菌の感染経路は経口、ヒト-ヒト感染、潜伏期間は4-8日です。
  3. 症状としては、激しい腹痛、下痢、下血が生じます。無症候から重篤なものまで幅広いですが、更なる症状として腎障害、血管障害、意識障害になるケースまであります。治療は十分な水分補給、点滴等で脱水補正、抗生剤、重篤ケースでは更なる治療が必要なケースもあります。
  4. 予防策としては、①75℃以上で1分以上加熱、②肉の中心部まで十分に加熱、③肉と野菜や調理済み食品が交差汚染を避ける、④ヒト-ヒト感染も生じ得るため、タオルの共用を避ける、お風呂でなくシャワーにすることです。

アニサキス症

  1. アニサキスは寄生性の線虫です。幼虫(約2〜3cm)が魚介類(サバ、スケトウダラ、サケ、イワシ、イカ等)に寄生していることがあります。
  2. 寄生した魚を食べることで、アニサキス症を発症します。
  3. 胃や腸に滞在して、激しい腹痛や悪心、嘔吐などの腹部症状を中心に、消化管穿孔、または蕁麻疹などアレルギーを引き起こすことがあります。症状は食後数時間以内に見られます。治療としては、内視鏡(胃カメラ)による摘出、胃カメラが行えない、確認できなかった場合は胃粘膜保護薬、ステロイド薬などの処方がされます。
  4. 予防策は①60度以上で1分以上の加熱、もしくは零下20度以下で24時間以上冷凍すること、②焼魚、冷凍ものの刺身を選ぶ、③魚介類の目視にてアニサキスの有無の確認をすることです。

発生件数あたりの感染者が少ない理由

アニサキス感染症の感染者が少ない理由としては、以下のような理由があります。

①感染経路の特異性

アニサキスに感染した魚介類を食べることによってのみ起こります。寄生虫が原因であるため、人から人への直接的な感染はありません。そのため、特定の食事によって感染した場合、その食事を摂取した人にのみリスクが及ぶため、感染者数は限定されます。

②食品衛生意識の向上

寿司屋や刺身を提供するレストランが魚を適切に処理し、必要に応じて凍結することが一般的です。

③アニサキスに関する知識

多くの人がアニサキスに関する知識があり、目視にて魚介類を確認する習慣が普及したことも考えられます。

発生場所に関して

令和5年(2023年)の報告された発生件数は約1000件でした。その内訳としては飲食店が約500件、家庭が約100件、販売店、事業場の給食施設が続き、約75%は特定されていますが、発生場所が不明となることも多くあります。どの飲食店も食品衛生法を遵守していると思われますが、万が一、火の通っているはずの料理が火が通っていない場合には、店員さんに確認することや、家庭での料理の際も、上記の対策を心がけて、調理を行なうようにしましょう。

食中毒を疑う場合

食中毒を疑う症状が出たら医療機関を受診しましょう。その際には食べたものに関して伝える、特に生魚や生に近い肉類等で心当たりがある場合は伝えましょう。

予防・対策

どのような食品から食中毒が発生したか、発生しやすい時期(温暖な時期は細菌性、寒冷な時期はウイルス性)の把握や、どのような経路があったか等を再確認し、食中毒の予防3原則を確認し、つけない・増やさない・やっつけることを心がけましょう。

コメント