職域での腰痛

作業環境管理

2019年に行われた国民生活基礎調査において、全国での腰痛有訴率は男性で9.1%、女性では11.3%でした(グラフ①)。腰痛は日常生活で発生しますが、職域でも発生し、業務上疾病の中で最も多く発生しています。業務上疾病中、腰痛が約60%を占め、次いで熱中症が約10%の順に多くなっています(グラフ②)。腰痛に関しては、レントゲンやMRIで原因で判明することもありますが、全ての原因が判明するわけでありません。症状、発生状況を加味し、労災認定に至ります。

グラフ① 「腰痛有訴者率」国民生活基礎調査より作成

グラフ②「職業性疾病の推移」 厚労省 業務上疾病発生状況等調査

腰痛の要因とその病態

この腰痛の要因となるものには、4つの要因があります。心理社会的要因(人間関係・ストレス)、個人的要因(運動習慣・生活習慣)、動作要因(作業姿勢・身体機能)、環境要因(作業環境)です。

腰痛も幅広いですが、これら要因により主に、腰椎捻挫(いわゆるぎっくり腰)、椎間板ヘルニア、圧迫骨折などが引き起こされます。

発生メカニズムは外力

捻挫は筋肉に急激に強い力が加わり、靭帯(筋肉と骨のつなぐ部分)が過度に伸展した状態です。(下図において筋肉と骨の間である白い部分)

illust AC たかながさん作成

椎間板は、多くある脊椎の間に存在します。曲げ伸ばしの際の緩衝材としての役割があります。ただし、強い外力が脊椎にかかった場合は、脊椎の間の椎間板が外に飛び出すことがあります。この病態を椎間板ヘルニアと言い、横を走行する神経を圧迫し、痺れや電撃痛が出現します。

illust AC PRiCOさん作成

他、骨自体に影響を与える場合もあります。圧迫骨折や分離脊椎などの病態が出現したり、骨粗鬆症が一因となることもあります。

職域での腰痛の予防

腰痛経験者を対象とし、運動介入において腰痛発生リスクを調査した研究があります。運動が0.5〜2年における腰痛発症リスクを減少させたとの報告があります。

参考:Choi BK, et al. Exercises for prevention of recurrences of low-back pain. Cochrane Database Syst Rev 2010; (1): CD006555.

いくつかの研究を総合的に見た研究であるため、運動に関してはバラエティがありましたが、ストレッチやマッケンジー法(欧米の腰痛診療ガイドラインで推奨される)などが介入されていました。

労働者を対象とし、運動介入において腰痛発生を調査した研究では、結果にばらつきがあります。ただ、上述のメタアナリシス研究の方がエビデンスレベルは高いでしょう。

このことより、腰痛を防止するために、定期的な運動やストレッチを行うことが有効になります。

また、整形外科医Nachemsonによる研究(1976)において、立位でかかる第3腰椎の負荷を100%とすると、腰を傾けた場合同部位に150%、前傾で重い物を持つ場合220%、座って前傾&重い物を持つ場合275%の負荷がかかるとされています。

捻挫やヘルニアなどの病態、研究結果より、姿勢による負担がいかに大きいかがわかります。このことより、腰痛が多く発生する職場では、作業管理・作業環境管理を見直すことが重要になります。

また、重量自体が腰痛と相関があります。厚労省は、男性で体重の40%以下、女性では男性の60%以下とするように勧告しています。

具体策まとめ

具体策としては、

①重量物の限界値を設定する。作業の仕事量分散、機械設備導入等を考える。

②前屈、中腰、ひねり、後屈など不自然な姿勢を減らす。不自然な姿勢とならないような配置を行う。

③立位、椅子坐位等、同一姿勢を長時間取らない。適宜休憩時間を設ける。

④ストレッチや運動を行う。

これらにより、腰痛は大きく減らすことができます。

職場での対策を推進する際は、「職場における腰痛予防対策指針の改訂及びその普及に関する検討会報告書」(2013)職場における腰痛予防サイト (厚生労働省)もご参考ください。

痛みの出現がある場合は、安静を保ち、痛みのでない範囲からリハビリを行うことが大切です。痛みのある範囲では、炎症を増悪させてしまう可能性があるため、過度に負荷をかけずに行なっていきましょう。

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